CAREER OWNERSHIP LIVING LAB.キャリアオーナーシップ
とは?

人生100年時代、VUCA、ジョブ型雇用、ESG投資、人的資本経営、働きがい改革など、今を象徴する議論の中で「キャリアオーナーシップ」が重要な考え方として登場します。しかし、この「キャリアオーナーシップ」という言葉は、その語り手の立場や所属する組織、これまでの経験や時代といった背景によって、その意味や重視する要素が少しずつ異なっています。

そこで、これからの時代に一層重要になる「キャリアオーナーシップ」を探索していくにあたり、この概念に関わりそうな「自己論」や「主体性」、「仕事観」、「人生観」といった要素について書籍24冊を元に独自の視点で研究、構造化。そして、これまで研究内容を「キャリアオーナーシップ 5つの中心概念(5領域11項目39要素)vol.1」にまとめ、多くの方に参照いただけるオープンデータとして公開しました。

今後、より多くの方々とキャリアオーナーシップを探索し、これからの時代に必要となるキャリアオーナーシップの定義を共創していきたいと考えています。

個人からも企業からも必要とされるキャリアオーナーシップとは?

キャリアオーナーシップとは、個人が自分の「キャリア」に対して主体性を持って取り組む意識と行動(=オーナーシップ)のことをいいます。 「キャリアオーナーシップ」という言葉は日本で生まれた比較的新しい造語で、明確な定義はありません。代表的な詳しい説明として、『個人一人ひとりが『自らのキャリアはどうありたいか、如何に自己実現したいか』を意識し、納得のいくキャリアを築くための行動をとっていくこと』(引用:経済産業省、「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」報告書)や『個人が自らの問題意識を持ち、学び、働くことを通じて、自らの「羅針盤」をもってキャリアを構築していくこと』(引用:経済産業省、キャリア教育アワード・キャリア教育推進連携表彰)などがあります。 いずれの説明も「意識」と「行動」の両方が伴っている点が特徴です。

キャリアとは では、「キャリア」とは何でしょうか。「キャリア」とは、過去から将来の長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖を指すものです。「職業生涯」や「職務経歴」などと訳されます。(引用:平成14年7月、厚生労働省、「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書) このほか、「キャリア教育」の分野では『「キャリア」とは、「人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」』と説明されています。(引用:平成 23 年1月31日、中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(答申)) いずれの説明でも、過去から将来にわたる「連鎖」や「連なり・積み重ね」といった生涯にわたって積み重なっていくものという点が共通しています。

キャリアオーナーシップが注目される背景 キャリアオーナーシップという概念は、人生100年時代の訪れとともに注目され始めました。人生100年時代の中、年功序列や終身雇用が限界を迎え始め、個人はひとつの企業で勤めあげるのではく、生涯にわたり個人のライフステージの各段階で活躍し続けることが求められる社会となり、一方の企業の役割は、従業員を単に「雇用すること」だけでなく、「社会で活躍し続けられるように支援すること」へと変化しました。 これからの企業の役割としては、「トップコミットメントの伝達」、「個人のマインドセットへの働きかけ」、「キャリア形成のための多様な機会提供」や「一人一人のモチベーション開発に軸足を置いた人事制度設計」などが重要になってくるといわれています。こうした役割の中でも特に、企業が個人に対しての支援を行う際には、「企業の成長」と「個人の成長」が一致していることが望ましく、個人としても自らのキャリア・ビジョンを明確にしつつ、企業との対話に臨むことが必要です。

また、「キャリアオーナーシップ」が注目されるもう一つの背景には、ESG投資の拡大があります。環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資の拡大で、ESGの中でもSに関連する人的資本(human capital)の情報開示が求められつつあります。 2020年1月、人材が企業の競争力の源泉となる中で、中長期的な企業価値向上の観点から「人的資本経営」を推進することを目的に「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」が経済産業省に設置されました。その報告書(通称:「人材版伊藤レポート」)において、「企業は、画一的なキャリアパスを用意するのではなく、多様な働き方を可能にするとともに、働き手の自律的なキャリア形成、スキルアップ・スキルシフトを後押しすることが求められる。」と指摘するとともに「個人は、キャリアを企業に委ねるのではなく、キャリアオーナーシップを持ち、自らの主体的な意思で働く企業を選択することが求められる。」と報告されています。 キャリアオーナーシップは、個人の側からも、企業の側からも注目されている、これからの時代の「個人と企業の新しい関係性」を象徴する考え方なのです。

キャリアオーナーシップに内包される5つの中心概念 キャリアオーナーシップでは、時代の要請から注目され始めたキーワードですが、時代のニーズや個人・企業双方が期待することなどが混ざり合い、さまざまなイメージを内包しています。 例えば、個人の側からは「自分らしい仕事や働き方を自分で決めて、選ぶ」といったイメージであったり、企業の側からみれば、自ら自分の仕事に新しい意義を見つけ、仕事を創造していく「自律・自走」というイメージだったりします。 そこで、キャリアオーナーシップ リビングラボでは、2020年にキャリアオーナーシップ概念の探究を開始し、さまざまな書籍や対話を通じて、その言葉に内包される中心概念を5つに整理しました。 探索を通じてわかってきたことは、キャリアオーナーシップという言葉のイメージには「仕事を通じた自己実現」や「自律・自走」といったことだけでなく、「ありたい自分の生き方を構想する」、「個人の好奇心やモチベーションを起点に行動する」、「変化に適応し、学びを積み重ねる」、「(自己実現は一人ではできないため)会社や環境と調和し、好循環を生み出す」といったこれからの時代に一層大切になってくる考え方や姿勢も色濃く反映されているという点です。当ラボでは、キャリアオーナーシップ概念の解像度をあげながら、個人・企業が成長しあうための共通言語化を目指していきます。

  • 自己論
  • 主体性
  • 人生観
  • 職業観

アプローチ

矢印

キャリアオーナーシップ 5つの中心概念

1 軸を起点にありたい自分の生き方を構想する 自分らしく生きるための軸を持つ / 未来起点でキャリアを設計する

2 自己を理解し、仕事を通して自己実現・表現する 仕事を通して自己実現する / 個性を理解し自己を表現する / 挑戦することで未来を切り開く

3 心の内側にある好奇心やモチベーションを起点に行動する モチベーションを維持する / 精神エネルギーや好奇心を大切にする

4 新しいものを受容し、自己変容を積み重ねる 学びを積み重ねる / 新しいものを受け止める

5 自分自身・周囲と調和し、好循環を生み出す 循環を促し自分自身を整える / 会社や環境と調和する

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【調査に用いた文献】 安達智子編著, 下村英雄編著(2013)『キャリア・コンストラクションワークブック 不確かな時代を生き抜くためのキャリア心理学』金子書房 / アーノルド・B.バッカー編, マイケル・P.ライター編, 島津明人総監訳/監訳, 井上彰臣監訳, 大塚泰正監訳, 種市康太郎監訳(2014)『ワーク・エンゲイジメント 基本理論と研究のためのハンドブック』星和書店 / アルバート・バンデューラ編, 本明寛監訳, 野口京子監訳(1997)『激動社会の中の自己効力』金子書房 / 岩田健太郎(2012)『主体性は教えられるか』筑摩書房 / ウィリアム・ブリッジズ著, 倉光修訳, 小林哲郎訳(2014)『トランジション 人生の転機を活かすために』パンローリング / 上淵寿編著・大芦治編著(2019)『新・動機づけ研究の最前線』北大路書房 / エドガー H.シャイン著・金井寿宏訳(2003)『キャリア・アンカー 自分のほんとうの価値を発見しよう』白桃書房 / エドワード・L・デシ著, リチャード・フラスト著, 桜井茂男監訳(1999)『人を伸ばす力 内発と自律のすすめ』新曜社 / 榎本博明・安藤寿康・堀毛一也(2009)『パーソナリティ心理学 人間科学,自然科学,社会科学のクロスロード』有斐閣 / 鹿毛雅治(2012)『モティベーションをまなぶ12の理論 ゼロからわかる「やる気の心理学」入門!』金剛出版 / 金井寿宏(2003)『キャリア・デザイン・ガイド 自分のキャリアをうまく振り返り展望するために』白桃書房 / 北浦正行編著・大山雅嗣ほか著(2019)『キャリアデザインの教科書』労働調査会 / 小室淑恵(2010)『ワークライフバランス 考え方と導入法 改訂版』日本能率協会マネジメントセンター / ジェレミー・ハンター著, 稲墻聡一郎執筆協力(2020)『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室 Transform Your Results』プレジデント社 / 島津明人(2014)『ワーク・エンゲイジメント ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある毎日を』労働調査会 / 田尾雅夫(2010)『よくわかる組織論(やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)』ミネルヴァ書房 / P.F.ドラッカー著, 上田惇生編訳(2000)『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』ダイヤモンド社 / 溝上慎一(1999)『自己の基礎理論 実証的心理学のパラダイム』金子書房 / 村山昇著・若田紗希絵(2018)『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』ディスカヴァー・トゥエンティワン / M. チクセントミハイ著, 大森弘監訳(2008)『フロー体験とグッドビジネス 仕事と生きがい』世界思想社 / ラース・スヴェンセン著, 小須田健訳(2016)『働くことの哲学』紀伊國屋書店 / ロジャー・コナーズ, トム・スミス, クレイグ・ヒックマン, 伊藤守監訳, 花塚恵訳(2009)『主体的に動く アカウンタビリティ・マネジメント 『オズの魔法使い』に学ぶ組織づくり』ディスカヴァー・トゥエンティワン / 鷲田清一(2011)『だれのための仕事 労働vs余暇を超えて』講談社 / 和田秀樹(2014)『比べてわかる!フロイトとアドラーの心理学』青春出版社

【参考に用いたWEBサイト】経済産業省:我が国産業における人材力強化に向けた研究会-報告書 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/20180319001.html
経済産業省:キャリア教育アワード・キャリア教育推進連携表彰 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/career-education/award.html
厚生労働省:「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書について https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/07/h0731-3.html
文部科学省:中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」<抜粋> https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/attach/1303768.htm
経済産業省:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~ https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/20200930_report.html

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